デューデリジェンスと投資先企業の業績との関係

デューデリジェンスは時間もお金もかかります。

費やした時間に対してどれだけの価値が生まれるのでしょうか?

時間を節約し、コンサルタント会社、法律事務所、会計事務所などに外部委託した方がよいのでしょうか?

バイアウト・ファンドに関するデューデリジェンスの経済的価値を定量的に推定し、自社で行う場合と外部委託する場合を比較した研究があります。

原題:「Due Diligence and Investee Performance」

著者:Douglas Cumming、Simona Zambelli

掲載紙:European Financial Management 2016年10月5日

 

データ

イタリアの投資先企業178社

イタリアのバイアウト・ファンド27社

デューデリジェンスのデータは独自調査を実施して収集

その他のデータはPEMデータベース、AIDAデータベース、各ファンド運用会社のホームページ、経済ニュースなどから収集

 

観測期間:1999年~2006年

 

方法:単変量分析と多変量分析

 

従属変数

  • 総資産利益率(投資時と1年後、2年後、3年後との差)
  • EBITDAマージン(EBITDAを売上高で除した値。投資時と1年後、2年後、3年後との差) 

 

独立変数

  • デューデリジェンスに費やした週の数の自然対数
  • ダミー変数:自社でデューデリジェンスの大半を行なう場合は「1」
  • ダミー変数:デューデリジェンスの大半を外部委託する場合は「1」
  • ダミー変数:デューデリジェンスの大半を監査、税務、助言を行なうコンサルタント会社(例:KPMG)に外部委託する場合は「1」
  • ダミー変数:デューデリジェンスの大半を法律事務所に委託するなら「1」
  • ダミー変数:デューデリジェンスの大半を公認会計士に委託するなら「1」
  • 12か月間株式市場リターン
  • MSCI年率リターン
  • 簿価に対する時価総額の割合:同じ業界で上場された株式について
  • ダミー変数:投資対象企業とバイアウト・ファンドの所在地が同じ地域にあれば「1」
  • バイアウト・ファンドの支配と関与の水準:契約上、バイアウト・ファンドが持つ支配と拒否権(例:取締役の選任権、取締役会の支配を継続する権利、最高経営責任者の選任権、重要な財務上の決定権)
  • ファンド運用会社の年数
  • 運用会社が扱うファンドの数
  • ダミー変数:リミテッド・パートナーシップの場合は「1」
  • ポートフォリオの大きさ(投資先会社の数)
  • ダミー変数:LBOならば「1」
  • 投資価額:運用会社が投資した総額
  • ダミー変数:IPOを予定しているなら「1」
  • ダミー変数:トレードセールを予定しているなら「1」
  • シンジケーションを組んだ運用会社の数
  • ダミー変数:イタリア最高裁がLBOを違法と判決した1999年1月~2001年9月の「暗黒時代」
  • ダミー変数:イタリア議会がLBOを合法とした2001年10月~2003年12月の「希望の時代」
  • ダミー変数:LBOが明らかに合法となった2004年1月以降の「光の時代」 

仮説1

デューデリジェンスによって、より良い審査と投資家・投資先企業のマッチングが可能になるため、デューデリジェンスに費やす週の数と投資先企業の業績との間には正の相関がある。増加の幅は逓減する。

検証結果

モデルによって1%~10%の有意水準で仮説を支持。

 

仮説2

デューデリジェンスを主に自社で行う場合(つまり法律事務所、会計事務所、コンサルティング会社に外注しない場合)、投資家と企業のマッチングがうまくいくため、デューデリジェンスと業績との相関は強くなる

検証結果

モデルによって1%~10%の有意水準で仮説を支持。

結論

デューデリジェンスの期間が長いほど、業績がよくなる傾向があります。

バイアウト・ファンドは平均して7週間をデューデリジェンスに費やしており、さらに4週間プラスすれば、3年後の総資産利益率が倍増する可能性もあります。

不思議なことに、デューデリジェンスを外部委託した場合、デューデリジェンスの期間が長くなっても業績の改善がみられなかったり、逆に業績が悪くなる傾向さえみられます。

 

私の感想

デューデリジェンスは、時間をかけてバイアウト・ファンド自らがやりましょうという結論でした。

CAIAのテキストで「バイアウト・ファンドにとってデューデリジェンスはきわめて重要であるが、ベンチャー・キャピタルではそれほど重要でない」と習った気がします。

その理由は、ベンチャー・キャピタルはそもそも事業を始めたばかりで情報が少なく、技術や業界に不透明な部分が多いため、精査に限界があるということでした。

本研究はイタリアの話ですが、全世界にも通用するのでしょうか?他国でも同様の研究が行なわれることを期待したいです。

デューデリジェンスのデータが無いため、一件一件聞き取り調査をした本論文の研究者の努力はすごいと思います。

 

 

 
 

 

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