私募の不動産ファンドの戦略は3つに大別されます。
コア型(低リスク低リターン)、オポチュニスティック型(高リスク高リターン)、バリューアッド型(その中間)です。
グロスとネットの収益率の差、すなわち運用報酬などは平均して、コア型で105ベーシスポイント、オポチュニスティック型で350ベーシスポイント、バリューアッド型で165ベーシスポイントです。
しかしバリューアッド型とオポチュニスティック型は、その高い運用報酬を正当化すべく、リスク調整後ベースで、コア型をアウトパフォームしているのでしょうか?
原題:「Real Estate Returns by Strategy: Have Value-Added and Opportunistic Funds
Pulled Their Weight?」
著者:Joseph L. Pagliari, Jr.
掲載紙:Real Estate Economics 2017年2月7日
データ
NCREIF-Townsend ファンド収益率データベース
600以上のファンドを含む
コア型とノンコア(バリューアッドおよびオポチュニスティック)型の比較方法
もしコア型ファンドが借入比率(LTV)を24%、35%、45%、55%、60%に高めたら収益率とボラティリティがどうなるか理論的に計算する。
その理論上の計算結果と報告されたノンコア型の収益率を比較し、同じボラティリティならばノンコア型がコア型をアウトパフォームしたかどうか判断する。
観測期間:2012年までの17年間
結論
バリューアッド型は、同じボラティリティになるまで借入比率を高めたコア型ファンドよりも、年率180ベーシスポイント、アンダーパフォームしました(すなわちコア型と比べてアルファは1.80%のマイナス)。
したがって投資家は、もしコア型ファンドの借入比率を40%に引き上げて投資していれば、バリューアッド型ファンドをアウトパフォームできていたことになります。
投資家はバリューアッド型ファンドの報酬体系を見直すべきではないでしょうか。
オポチュニスティック型ファンドのアルファは0.06%とゼロに近づきました。
リーマンショックによって「質への逃避」があり、ノンコア型に不利だったことを考慮し、1996年~2007年の期間のみで分析しても、バリューアッド型ファンドのアルファはゼロに近い、もしくはマイナスであり、オポチュニスティック型ファンドのアルファはほとんどの年でマイナスでした。
リスクの高いファンドの収益は、統計的ばらつきが大きくなります。
投資家は、ハイリスクのファンドが好成績だった場合、高い成功報酬を支払い、成績が悪かった場合、その損失の全てを被ります。
したがってばらつきが大きくなるほど、投資家が手にする収益の非対称性は(投資家にとって不利に)大きくなります。
私の感想
NCREIF(米国不動産投資受託者協会)のデータは様々なバイアスを含んでいるとCAIAのテキストでも警告しており、これを使ってどう分析するのかと思ったら、工夫してうまく比較を行なっており、感銘しました。