商業不動産担保証券(CMBS)の
「環境への優しさ」の水準は
債務不履行リスクや借入条件に
影響を与えるのだろうか?
 

グリーン・ビルディング(環境配慮型建物)の賃貸料と売買価格は「グリーン・プレミアム」がついているおかげで高い、と言われています。

建物のグリーン化はCMBS市場で債務不履行リスクと借入条件に影響を与えるのでしょうか?

原題:「Green Buildings in Commercial Mortgage-Backed Securities: The Effects of LEED and Energy Star Certification on Default Risk and Loan Terms」

著者:Xudong An、Gary Pivo

掲載紙:Real Estate Economics 2018年1月3日

 

主なデータ

Trepp, Inc. および米国グリーンビルディング協会(USGBC)の提供する、融資実行日が2000年~2013年の商業不動産担保証券6,304本(オフィスビルのみ)の月次データ

 

研究方法

標準的なCox比例ハザード・モデル

本研究においてグリーン・ビルディングとは米国グリーン建築基準のLEEDや環境ラベリングのエネルギー・スターが認証された建物と定義する。

対象となる建物の大部分はローンを開始してから数年後に資格を取ってグリーン・ビルディングとなる。本研究では、同一のローンの担保物件がグリーン・ビルディング化する前と後の債務不履行リスクを比較する。

横断面的な分析を行なわない(つまりグリーンな建物とグリーンでない建物を比較しない)理由は、グリーン・ビルディングがハイ・グレードな建物であることが多いため、債務不履行リスクが低下してもその原因がグリーン化によるかどうかがはっきりしないため。

 

従属変数

債務不履行のハザード比率 

独立変数

  • エネルギー・スター
  • エネルギー・スターまたはLEED
  • 元利金返済カバー率(DSCR)
  • LTV比率
  • 期限前返済禁止期間あり
  • 期限前返済禁止なし
  • 借入残高の対数
  • ローン開始時にLTV比率が70%超
  • 公共の交通機関が建物の4分の1マイル以内にある
  • 1平方フィート当りの価額
  • 新しい物件か(10年以下)
  • 古い物件か(39年超)
  • 大都市統計地域の失業率
  • 米国債10年物利回りのボラティリティ
  • RCA商業用不動産価格指数(CPPI)
  • 大都市統計地域ダミー
  • ビンテージ・ダミー

結論

  1. エネルギー・スターの認証が取れれば債務不履行リスクが下がる傾向がある。(有意)※エネルギー・スターとは、全米の他の建物との比較における光熱費のスコアを付与する制度。スコアが75以上(すなわち全米の75%の他の建物よりエネルギー効率が良い)ならば認定。
  2. LEEDの認証がある場合も、債務不履行リスクが下がる傾向がある。※LEEDとはLeadership in Energy & Environmental Designの略で、米国のグリーン建築基準。エネルギーと水の効率性において最低基準を満たした建物に資格が与えられる。
  3. 認証されたポイントが高い場合にも、債務不履行リスクは低下
  4. ローンを開始してから数年後にグリーン・ビルディングになることが多いため、最初の借入条件とグリーン化の相関はないと思われる。グリーン・ビルディングは環境に良いばかりでなく、それを担保にしたローンはグリーンでないものをアウトパフォームする傾向がある。
グリーン化によって債務不履行リスクが下がる理由が費用削減のおかげか、賃貸料を引き上げられるためなのか、キャプレートが低くなるためなのか、あいにく本分析からは分からない。
 
私の感想
建物のグリーン化を推進する結果が出たので、まずは良かったです。
Cox比例ハザード・モデルの式をみるとCAIAで習ったデフォルト強度の誘導形を思い出しました。Cox比例ハザード・モデルは、医学や薬学でも広く使われているようです。
本研究の本筋と離れますが、アメリカ人は車を運転したがるものだと私は思い込んでいたのですが、公共の交通機関に近いかどうかが物件の価値に影響するところは日本と同じですね。
 

 

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