起業家の知能は事業の成果に影響するのか? 

心理学でいう「知能」とは、状況の理解に優れ、臨機応変に対応でき、複雑な考えが理解でき、論理的な類推と原因の見極めができ、計画力、問題解決力、抽象化能力、学習能力、経験から学ぶ能力を持つといった「地頭の良さ」を指し、単に試験の成績がよいというだけではありません。

起業家の知能は事業成果に関係するのでしょうか?

原題

「The relationship of general mental ability to entrepreneurial firm performance: A meta-analysis」

著者:David S. DeGeest、Scott Seibert、Ernest O'Boyle

掲載紙:Journal of Occupational and Organizational Psychology 2018年1月11日

データ

1950年~現在を対象にして、6つの論文データベース、複数の学会誌、参照文献から論文87本を選択

観測数:45,749

観測対象人数:5,935人

 

研究者の国籍と知能の測定方法

  • 米国:レーヴン漸進的マトリックス、Wonderlic(入社/入学試験)、ASVAB(米軍入隊試験)、AFQT(米軍入隊試験)、Analytic intelligence、複合測定、Northhouseによる測定、Vocab test
  • 中国:レーヴン漸進的マトリックス、複合測定
  • ドイツ:Northhouseによる測定、WAIS
  • カナダ:STEM
  • オランダ:レーヴン漸進的マトリックス、総合学力試験
  • フィンランド:WAI(勤務能力指数)
  • インド:レーヴン漸進的マトリックス、文章完成法検査、MSCEIT(EQテスト)
  • マレーシア:複合検査
  • ブラジル:複合検査
  • 南アフリカ:レーヴン漸進的マトリックス、数唱テスト
  • スコットランド:レーヴン漸進的マトリックス
  • ケニア:数唱テスト
  • ジンバブウェイ:Connecting numbers
  • ウガンダ:レーヴン漸進的マトリックス
  • ナミビア:レーヴン漸進的マトリックス
  • スリランカ:数唱テスト、複合検査
  • 多国籍:レーヴン漸進的マトリックス、数唱テスト

 

事業成果の測定値

  • 利益率
  • 収入
  • 売上高の増減
  • 利益の増減
  • 従業員数
  • 資産価値
  • Survival
  • 主観的評価 

分析方法

Rのmetaforパッケージ

仮説およびその検証結果

  • 仮説その1:起業家の知能は事業成果(財務、成長、規模、主観的成果)と相関する → YES
  • 仮説その2:起業家の知能は、主要5因子の性格(Big Five)による影響度に加味する形で事業成果に影響する。→ YES
  • 仮説その3:起業家の知能と事業成果の関係には、知識と技能の取得を間接的に経由する部分がある → YES
  • 仮説その4:ハイテク産業では起業家の知能と事業成果の相関が強い → 有意でない
  • 仮説その5:高度に発展した経済では起業家の知能と事業成果の相関が強い →有意でない
  • 仮説その6:創業まもないベンチャーにおいて起業家の知能と事業成果の相関が強い →有意でない

 

私の感想

心理学とベンチャー・キャピタル?!

何か新しい発見がありそうに思えて、読んでしまいました。分析の対象となった研究者の国籍が欧米、アジア、アフリカなど全世界にまたがっているところがすごいです。

しかし結論は地味で、頭の良い人は起業も成功しやすいという常識的な線に終わっています。

意外性があるとすれば、ハイテクでもローテクでも、知能と業績の相関に差異がなかったことです。そういえば他の論文でもベンチャーの経営チームの構成に関し、ハイテクとローテクの間に差が無かったのを思い出します。

地頭を測定するのは難しいと想像され、そのためか本研究では筆記試験に頼っているように見受けられます。

日本では高学歴でベンチャーに成功した人が多いそうですが、高学歴=コネ+社会的信用という要因もあるように思います。しかし本研究ではその点に触れていないのが残念です。

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