信用格付けというものは、
資産担保証券(ABS)のスプレッドとリターンに
どれ程の影響を及ぼすのか?

格付け機関は、ストラクチャードファイナンス商品に対して不正確で偏った格付けを与えていると、リーマンショック以来厳しく批判されています。それでは、こうした格付けは、いったいどの程度スプレッドとリターンに影響を及ぼすものなのでしょうか?

原題:「Do credit ratings affect spread and return? A study of structured finance products」

著者:Fernando Moreira、Sheng Zhao

掲載紙:International Journal of Finance & Economics 2018年1月29日

データ

  • ブルームバーグ、データストリーム、ムーディーズのデータベースより
  • 1999年12月28日から2015年12月31日に米国で新規に発行された資産担保証券(ABS)のトランシェ24,637本 
  • 2001年2月~2015年12月の間に米国で取引された328銘柄のABS。同期間における格付けの変更は895回

 

分析方法

  • SEM(構造方程式モデリング)
  • 格付けが資産担保証券(ABS)のスプレッドとリターンに影響を与える可能性を検証
  • カイ二乗検定
  • RMSEA(平均二乗誤差平方根)
  • CFI (Comparative Fit Index)
  • Tucker–Lewis index

 

変数

  • 格付け:ムーディーズ、スタンダード&プアーズ、フィッチ、DBRS
  • 銘柄を構成するトランシェの数
  • トランシェの加重平均残存期間
  • トランシェの加重平均クーポン・レート
  • 発行体の発行市場におけるシェア
  • 同一銘柄の中の他の劣後クラスによって信用補完されている割合
  • 担保の種類(住宅抵当債権、自動車ローン、学生ローン等)
  • 発行国
  • 株価指数(S&P 500)
  • 米国債価格指数
  • 社債価格指数(トムソンロイターズ)

結論

ABSの格付けの影響は、流通市場よりも発行市場の方に強く表れています

発行市場において低い格付けは高いスプレッド(高い発行価格)につながります。

しかし流通市場では、投資家の関心事はむしろ他の商品とのリターンの比較になります。流通中のABSに関しては、格付けのアウトルックと実際の見直しが一致した場合にのみ、格付けの発表から1日後にリターンに影響が出ますが、その後すぐに、格付けの影響は薄れます。

 

私の感想

相関関係は因果関係ではないと耳にタコができるほど聞かされてきたので、「因果関係」を追求するというくだりを見たとき興奮しました。

しかし結局、SEMは因果関係を証明するものではなく、「因果関係が無いとはいえない」という、統計学でよくあるモヤモヤした終わり方をする分析方法でした。

少なくとも相関を測っているので、それだけでも良かったです。格付けというものは発行時は影響大で、流通してからは影響が薄くなるとは、ちょっと意外な結論でした。

 

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