アクティブ運用ファンドの腕の見せどころはいつなのか?

アクティブ運用とは、うまく銘柄を選ぶことによって市場の平均的なリターンを上回るリターンを得ようとすることです。

しかし効率的市場仮説によれば、「上場株式のアクティブ運用は不可能」ということになります。

この仮説によれば株価はすでに全ての情報を反映していて常に正しい価格になっているため、割安な銘柄を発見したり割高な銘柄を空売りしたりできないはずなのです。

しかし本論文によれば、米国のアクティブ運用型ミューチュアルファンドのうち、8%がアウトパフォームしています。

特に、過去実績ベースで上位のファンドがアウトパフォームするのは、楽観的な投資家心理が市場に広がっている時であることが実証されています。

 

原題:「When fund management skill is more valuable?」

著者

Feng Dong(シエナ大学助教授)

John A. Doukas(ケンブリッジ大学経営大学院アソシエート)

掲載紙:European Financial Management 2019年6月25日

この研究の新しいところは、「投資家の行動は必ずしも合理的でない」と考え、以下の3種類の投資家に着目した点です。

  • 運用スキルの高い、優秀なファンドマネージャー
  • 運用スキルの低い投資家
  • ノイズトレーダー

「ノイズ」とは、「内在的な本来の価値に株価がいずれ収束する」という前提に基づき、一時的に本来の価値から株価が乖離した部分です。ノイズがあればあるほど相場は歪み、ミスプライシングが発生します。

優秀なファンドマネージャーは、株価が変動したとき、それが価値の変化によるものなのか、あるいは単なるノイズなのかを区別できると考えられます。この人たちは費用をかけ、才能を駆使し、個別企業のファンダメンタルズな情報を独自に分析します。

運用スキルの低い投資家は、ファンダメンタルズを分析するものの、スキル不足のため、良い投資機会を告げる重要情報と市場のノイズを区別できず、ノイズを有益な情報とみなして売買してしまう可能性があります。

ノイズトレーダーは、ファンダメンタルズを一切無視し、チャートを使ったテクニカル分析やプログラム取引を行い、市場のノイズを増やしています。

本研究では、市場における投資家心理が「楽観的でノイズの多い時期」と「悲観的でノイズの少ない時期」に分け、ファンドマネージャーのリターンを計測しました。

 

投資家心理が楽観的なときにノイズが多くなると考える理由は、ノイズトレーダーが楽観的な市場センチメントに影響され、われもわれもと取引に参加し、高リスクの株式を好み、高ベータ株を過大評価するからです。またノイズトレーダーは、株を手放して後から後悔したり、損が出たことを認めたくない心情から損切りを嫌い、バブルを引き起こします。

そして素人レベルの投資家は、過大評価された株を好むのでノイズに拍車がかかります。

合理的で冷静な優秀なファンドマネージャーやアービトラージャーは、過大評価された株式を避けます。しかしこの人たちがファンダメンタルズに近い価格まで株価を引き下げる努力をすることはありません。なぜなら市場の心理に逆らってまで取引すれば損を被るリスクがあるからです。またミューチュアルファンドなどの機関投資家は空売りが制限されていてできません。

したがって、一部の投資家が浮かれて株価が過大評価されたときは、その状態がしばらく放置され、市場はノイズだらけになります。

このとき目利き力のある優秀なファンドマネージャーはノイズに騙されないので、本領を発揮できるはずです。

 

データ

  • 米国における株式アクティブ運用のミューチュアルファンド2,190本
  • ブルームバーグ・ファンド・データセット
  • 投資家心理の主な尺度として、BW(Baker and Wurgler)(2006)心理指数10およびミシガン大学心理指数11を使用

観測期間:1990年1月~2014年12月

分析方法

ファーマ・フレンチ・カーハートのモデルを使用した多変量回帰分析。

銘柄選択スキルは、市場全般のリターンの誤差項とファンドの誤差項の比率で測定。

結論

優秀なファンドマネージャーは、ノイズ多発期(市場の楽観期)に常にアウトパフォームするという仮説が実証されました。

ノイズ多発期(市場の楽観期)に、実績ベースでアルファの生成が上位5分の1だったファンドマネージャーは、市場の指標を4.82%を上回り、上位5分の2だったファンドマネージャーは、2.70%上回っていました。

しかしノイズの少ない時期(市場の悲観期)には、どのファンドマネージャーも市場並みかそれ以下のパフォーマンスしか出せていません。

その理由は、市場が悲観的なとき、素人レベルの投資家やノイズトレーダーが市場に近寄らなくなり、ノイズが発生せず、株価が本来の価値に近づいているためと考えられます。

この状況では、ファンドマネージャーが高いアルファを実現する余地が少ないのです。

 

私の感想

「公開された全ての株価は全ての情報を瞬時に反映する」という効率的市場仮説は、半分正しい、ということなのでしょう。つまり、すぐに儲かりそうな話に多くの人が集まるものの、長くは続かないのですね。

アクティブ運用に関しては、プロが素人に常に勝つわけでないという事実はショックです。指標を上回ったアクティブ運用型ミューチュアルファンドがたったの8%とは、少な過ぎませんか。よほど慎重にファンドを選ぶか、インデックス運用するか、どちらかなのでしょうね。

 

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