スポーツカーを買ったヘッジファンド運用者の
シャープ・レシオは低い

ファンドマネージャーの性格が投資に影響するということは、あるのでしょうか?

これまでは個人投資家の性格が研究されてきました。

本研究では新たに、ファンド運用者に焦点を当て、ファンドマネージャーの性格が「刺激を求める」気質なのかを所有する車の種類によって調べています。

原題:「Sensation Seeking and Hedge Funds」

著者:

Stephen Brown(モナッシュ・ビジネス・スクールおよびニューヨーク大学経営大学院所属)

Yan Lu(セントラルフロリダ大学カレッジ・オブ・ビジネス所属)

Sugata Ray(アラバマ大学カラバーハウス・カレッジ・オブ・ビジネス所属)

Melvyn Teo(シンガポールマネージメント大学Lee Kong Chianスクール・オブ・ビジネス所属)

掲載紙:The Journal of Finance, VOL. LXXIII, NO. 6。2018年12月号。

 

「刺激を求める気質」とはどういうことかというと、「新しい色々な複雑で強い刺激や経験を求め、そのために身体的、社会的、法的、財務的なリスクを取る性格」と定義します。

刺激を求める気質は、危ない運転、命にかかわるようなスポーツ、薬物乱用、犯罪とも関連づけられてきました。

ヘッジファンドは、空売り、レバレッジ、デリバティブなど、制約をあまり受けない複雑で活動的な戦略を用いるため、刺激を求める運用者が集まる可能性があります。

実際、プロのトレーダーは大きな賭けとなる売買注文を出すときにアドレナリンが出るように感じ、「トレードは中毒になる」とよく言うそうです。神経科学者によれば、人間の脳内で金銭的利益とコカインは同じ報酬回路を刺激します。「ヘッジファンドの運用者がスポーツカーを買ったら赤信号」と言う投資家もいます。

研究の詳細

スポーツカーの定義は、2ドアのクーペ、2ドアのコンバーチブル、2ドアのハッチバックとし、例えばフェラーリ、アストンマーティン、日産GT-R、ロータス・エリーゼ、フォルクスワーゲンGTIなど。

観測期間:2004年1月~2015年12月

データ

  •  1,144人の米国在住のヘッジファンド運用者が対象。
  •  自動車の購入データ:VIN Place(2006年~2012年)。ディーラー。自動車保険会社。    Autocheck (www.autocheck. com) 。
  •  米国道路安全保険協会(www.iihs.org)の安全性評価の格付け
  •  自動車の価格:cars.com (www.cars.com)。cars-data (www.cars-data.com)。
  •  ヘッジファンドのリターンおよび預り資産:Lipper TASS。Morningstar。         Hedge Fund Research (HFR)。BarclayHedge(1990年1月~2015年12月)。
  •  規制当局による処分、民法/刑法違反のデータはForm ADV。

分析方法

  • 各運用者の固有リスクは、Fung and Hsiehの7ファクターモデルの残差項で測定。
  • 全て年率換算。
  • ファンドの閉鎖に関してはロジスティクス回帰。

 

実証結果

以下が分かりました。

スポーツカーを買った運用者は:

  • リスクの高い投資を行う。(リターンの標準偏差が1.8%ポイント高く、変動性が16.61%大きい)。
  •  高出力の車を買った運用者も、リターンの変動性が低出力の車を買った運用者に比べて1.14%ポイント高く、最大出力が1標準偏差増えるとファンドのリスクが1.28%ポイント増す。
  •  高トルクの車を買った運用者も、リターンの変動性が低トルクの車を買った運用者に比べて1.25%ポイント高く、最大トルクが1標準偏差増えるとファンドのリスクが1.13%ポイント増す。
  •  独特の戦略をとりがちであり、Fung and Hsiehの7ファクターモデルで説明できる部分が小さく(決定係数R2が低い)、日次でリターンが高い宝くじのような銘柄を選好し、S&P500に組み込まれていない銘柄を多く保有する。
  •  リターンが低い。(2.92%アンダーパフォーム。)
  •  リスク調整後リターンも低い。(シャープ・レシオが0.39低く、情報レシオが0.29低い。)
  •  オペレーションリスクの尺度であるωスコアが高く、不正を行う確率が高い。(ωスコアは、CFA協会のグレアム・アンド・ドッド賞を受賞したニューヨーク大学のブラウン教授が発案した尺度。刺激を求める運用者は恐れ知らずで退屈を嫌うため、コンプライアンスなどバック・オフィス機能で手を抜き、オペレーションリスクを高めて投資家に害を及ぼす可能性がある。) スポーツカーを買った運用者はファンドを閉鎖させ、規制当局による処分を受け、民法違反や刑法違反を犯す確率が 高い。(18.4%ポイント高い。ファンドが失敗して閉鎖する要因として、オペレーションリスクの方がファイナンシャルリスクよりも重要。)
  •  車の最大出力が1標準偏差増えると、ファンドが閉鎖する確率は1.95%増し、最大トルクが1標準偏差増えると、ファンドが閉鎖する確率は1.02%増す。(ファンドが閉鎖する確率は平均6.04%なので、この増加は大きい。)
  • ポートフォリオ売買回転率が高い。

 

その他

刺激を求めるヘッジファンド運用者がアンダーパフォームしている上にオペレーションリスクが高いにもかかわらず廃業しない理由は、投資家の中にも刺激を求める者がいるためです。

スポーツカーを買ったファンド・オブ・ファンズ(FOF)の運用者も高いリスクを取る傾向があり、リターンの標準偏差が6.71%高いのでした。

性別、社会的地位、同僚の影響、金遣いの荒さ、既婚か未婚か、年齢などは関係がありませんでした。

私の感想

以前、オルタナティブ投資業界の交流会に出たとき、ヘッジファンドの運用者の方とたまたま会話したことがあるのですが、バイクレースにレーサーとして出ているとのことでした。

デューデリジェンスの一環として、運用者の愛車がスポーツカーなのかを尋ねる日がくるかも知れません。

この研究テーマは興味深いものですが、データを収集するためにヘッジファンド運用者と購入したクルマの車種をひとつひとつ紐づけしていく作業がさぞ大変だったろうと想像します。

執筆者は4人います。それぞれが異なる地域に在住しており(ニューヨーク、フロリダ、アラバマ、シンガポール)、地球がひとつになったことを実感します。

お問合せ・ご相談

フォームでのお問合せは24時間受け付けております。
お気軽にご連絡ください。