バーゼルIIIとソルベンシーIIの整合性

銀行と保険会社は異なるリスクに晒されていますが、投資先の資産クラスに重複があります。それなのに、これまで業態の垣根を越えた研究はほとんどありませんでした。金融コングロマリットが規制アービトラージや規制回避を行なう機会を作らないように整合性が必要です。現行および新たに導入されるバーゼルIIIとソルベンシーIIはどれほど整合しているでしょうか?本研究はそれを定量的に検証します。

原題

Basel III Versus Solvency II: An Analysis of Regulatory Consistency Under the New Capital Standards

著者:Daniela Laas、Caroline Franziska Siegel

掲載紙:The Journal of Risk and Insurance 2016年6月9日

比較の方法

架空のバランスシートを想定し、それが銀行だった場合と保険会社だった場合で所要自己資本がどうなるかを計算する。

資産サイドの前提

欧州の大手保険会社の平均的な資産構成とする。

負債サイドの前提

5回目の定量的影響調査(QIS:Quantitative Impact Study)における経済価値ベースの貸借対照表に基づく。

その他の前提

クーポン・レート、金利、株価、デュレーション、その他の数値や割合は保守的な数値、業界の平均値、代表的な指標、先行研究で使われたものとする。

 
 

結論

  1. 本研究で使われた架空のバランスシートならば、銀行の資本賦課は保険会社よりも16%~40%大きい。
  2. 銀行は保険会社よりも、はるかに多いTier 1資本を必要とする。
  3. グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs:Global Systemically Important Banks)の場合、保険会社よりも141%(新しく導入されるバーゼルⅢなら311%)多いTier 1資本を必要とする。
  4. G-SIBsでない場合、Tier 1資本は92%(新バーゼルⅢなら227%)より多く必要になる。
  5. ロバスト性を確認するため、架空バランスシートの資産構成を1%単位で変化させた場合の結論は、前述の結果とほぼ同じ。
  6. 大多数の資産構成において現行のバーゼルⅢの資本要件がソルベンシー資本要件を上回った。
  7. 全ての資産構成において新バーゼルⅢの所要自己資本は、ソルベンシーⅡを上回った。
  8. 新バーゼル下の資本要件が保険の場合よりも52%~307%上回るものもあった。
  9. 株式とオルタナティブ投資の割合がきわめて高い場合にのみ、保険会社の所要自己資本が銀行を上回るものの、そのような例は欧州の保険会社ではめったにない。
  10. 不動産、株式、オルタナティブ投資の資産構成に占める割合が高まる場合、所要自己資本の増加率は、ソルベンシーⅡの方が現行および新バーゼルⅢよりも顕著である。
  11. 国債と住宅抵当ローンの割合を高めることにより、保険会社は銀行よりも大きな比率で資本賦課を減らすことができる。
  12. 増減の比率でなく所要自己資本の絶対額でみると、新バーゼルⅢでは株式とオルタナティブ投資のリスク・ウェイトが大幅に引き上げられると予想され、それにより所要自己資本の金額の増加もソルベンシーⅡを著しく上回るだろう。
  13. さらに銀行は社債の割合を高める場合、保険会社より不利になる。
  14. その反対に、新バーゼルⅢの下で、国債と不動産への投資を増せば、ソルベンシーⅡよりも所要自己資本を減らせる。
  15. 新たに株式とオルタナティブへ投資すれば、上記と同様、ソルベンシー資本要件は現行バーゼルⅢの資本要件を上回るが、新バーゼルⅢの資本要件よりもはるかに低い。
  16. その他の資産クラスに関し、資本要件の増加は保険会社の方が銀行よりも低い。
  17. 国債と住宅抵当ローンに投資すれば、ソルベンシーⅡの要件は低下する。

私の個人的な感想

私は金融翻訳者なので、バーゼル関連の翻訳もするし、ソルベンシー関連の翻訳もします。この論文のおかげで、両者の関連がよりよく理解でき、ありがたいです。

本論文は石橋を叩いて渡るように前提をていねいに積み上げて計算し、ロバストな結論に至っています。スキのない分析とはこういうことなのでしょう。

 

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