ヘッジファンド業界は、マクロ経済の悪化、ボラティリティーの上昇、規制強化などにより苦境に立たされて、閉鎖するファンドも増えてきました。しかし破綻を予測できるモデルがあれば、早期警報システムとなって、投資家の役に立つでしょう。それが本研究の動機です。
原題「Does Size Matter in Predicting Hedge Funds’ Liquidation?」
著者「Adrien Becam, Andros Gregoriou, Jairaj Gupta」
掲載紙「European Financial Management」2017年11月
研究の詳細
データ
リッパーTASSのデータベース
運用資産の規模別に、上位25%のファンド=大規模ファンド、下位25%=小規模ファンド、その間=中規模ファンド
大規模ファンドの数 1,229、小規模ファンドの数 1,923、中規模ファンドの数 2,675。
観測期間: 1995年1月~2016年12月
生のデータから以下が分かりました。
規模別の閉鎖率
全サンプルの平均 4.26%に対し、
リーマン・ショック時に全体的に閉鎖率が高まったものの、大規模ファンドの閉鎖率は中小規模ほど劇的に増さなかった。
小規模ファンドの25%は50か月目を迎える前に閉鎖され、50%が100か月目を迎える前に閉鎖される。
中規模ファンドの閉鎖率は、おおむねその半分である。
大規模ファンドの閉鎖率は、ファンドの存続年数にあまり関係ない。
やはり大きいファンドは潰れにくい、という結論がもう出てしまいましたが、実証分析はここで終わりません。破綻の原因が規模以外の要因かも検証しているのです。
実証方法
ロジスティック回帰
6か月間、12か月間、24か月間の指数加重移動平均をとる
分析対象となる運用戦略
説明変数
上記の4と5には多重共線性がありそうですが、著者はその辺も検証し、問題がないことを確かめています。
結論
ファンドは規模が小さいほど破綻する確率が高いことが実証されました。(全ての説明変数が有意)
この論文の面白味は、むしろコントロール変数の方にあり、以下の実証結果も出ています。
私の個人的な感想
寄らば大樹の陰―大きいファンドはより安全、という常識的とも言える結論でした。
私は、中小のファンドの方が小回りが利いてアルファがとりやすい、というような結論を期待していたので、ちょっとがっかりしました。
セイム・ボート出資の有無は利害関係をみる上で重要だと思っていたのですが、破綻率との関係が弱いというのは驚きです。
ロジスティック回帰のことを初めて知りました。統計学は奥が深いですね。