バイアウト・ファンドは、どんな事業を買うのか?
切り売りされた事業部門を買うPEファンドの役割

バイアウト・ファンドは企業価値の破壊者と非難されることがあります。短期的な利益の追求のため企業を襲うと思われているためです。しかし著者は「事実はその逆」と主張します。

 

原題:「WHO DOES PRIVATE EQUITY BUY? EVIDENCE ON THE ROLE OF PRIVATE EQUITY FROM BUYOUTS OF DIVESTED BUSINESSES」

著者:Aseem Kaul, Paul Nary, Harbir Singh

掲載紙:Strategic Management Journal 2017年12月

上場会社等の経営者は、えてして自己の保身と事なかれ主義に陥り、組織の巨大化を図ると言われます。その一方で株主は短期的な利益を求めがちです。この結果、経営者は株主に逆らってまでノンコア事業に長期投資はしないという選択を取ると考えられます。またノンコア事業の管理者は良い待遇を受けていないと思われます。

しかし専門知識を有するバイアウト・ファンドが会社を非上場化し、ガバナンスを行なうことにより、買収された事業部門を復活することが期待できます。

本研究は次の仮説を立てます。バイアウト・ファンドは、上場企業などが切り売りする事業部門のうち、次の特徴を持つものを買収する:

  • ノンコア事業
  • 長期投資の不足により伸び悩んでおり、過小評価されている部門
  • 事業部門の管理者の報酬が低い部門

この仮説は正しいのでしょうか?

研究方法

観測期間:1997年~2010年

データ

SDC Platinum、Compustat、Execucomp のデータベース

上場された米国のメーカーによって切り売りされた1,711の事業部門

分析方法: プロビット回帰分析

従属変数

  • バイアウト・ファンド:買収者がバイアウト・ファンドならば「1」、それ以外は「0」

独立変数

  • ノンコア:買収される事業が親会社にとってノンコア事業ならば「1」
  • 研究開発投資:買収される事業において、研究開発費の売上高に対する比率が業界平均より低ければ「1」、それ以外は「0」
  • 競合他社資産耐久性:新規に取得した資本的資産の使用年数が、同業他社の方が高いかどうかの尺度
  • 親会社上級管理職長期報酬:上級管理職の報酬に関し、長期的な部分(ストック・オプション+長期インセンティブ・プラン)が全報酬に占める割合
  • 親会社対事業部門の上級管理職長期報酬の差:親会社のトップレベルの幹部と事業部門の上級管理職の長期報酬のギャップ

結論

  1. 売りに出されたノンコアの事業を買収しようとするのは、一般企業よりもバイアウト・ファンドとなる傾向がある。(p値4.9%で有意)
  2. 研究開発投資が競合他社より低い部門が売りに出された場合、買収しようとするのは一般企業よりもバイアウト・ファンドとなる傾向がある。(p値2.7%で有意)
  3. 親会社の経営トップの長期的なインセンティブが弱いほど、買収しようとするのは一般企業よりもバイアウト・ファンドになる傾向がある。(p値4.0%で有意)

 

私の感想

平たくいえば、親会社から継子扱いされ、研究予算を十分もらえなくて成長できず、売りに出されたノンコア部門をバイアウト・ファンドが救うだろうという著者の主張がよく分かりました。

できれば買収後に事業部門がどう成長するかに関しても分析してほしいのですが、データがないとのことで残念です。

悪玉と言われていたバイアウト・ファンドは実は善玉であるという見方が斬新でした。

プロビット回帰分析のことを初めて知りました。統計学は奥が深いですね。

お問合せ・ご相談

フォームでのお問合せは24時間受け付けております。
お気軽にご連絡ください。