REITの空売りの増加によって住宅価格の下落は予測できるのでしょうか?もしできるならば、住宅を買い持ちしている投資家は、REITの動向を基に住宅価格の先行き予想したり、ヘッジしたりできます。規制当局もREITの空売り状況に基づいて不動産バブルを未然に防ぐ政策が取れるでしょう。それが本研究の動機です。
原題: 「The Big Short: Short Selling Activity and Predictability in House Prices」
著者: Pedro A.C. Saffi、Carles Vergara-Alert
掲載紙:Real Estate Economics 2017年
原題の「The Big Short」の部分は、映画のタイトル(邦題「マネー・ショート 華麗なる大逆転」)から取ったのでしょう。映画のタイトルを学術論文に使うとは、なんと粋な!
この映画は住宅市場のファンダメンタルズの悪化を見抜いたヘッジ・ファンドがモーゲージ債のショート・ポジションを取って大儲けした実話に基づいています。しかし本論文では逆に、投資家のショート・ポジションの取り具合を観察することによって、ファンダメンタルズの悪化を予測しようというものです。
研究方法
観測期間:2006年~2013年
データ:
住宅価格の尺度
米FHFA住宅価格指数
ムーディーズ/RCA商業不動産価格指数
(両方ともリピート・セールスで、加重された価格)
空売り状況の尺度(CRSP–Ziman REIT、CRSP/Compustat、Markitのデータベースより以下のデータを使用)
貸借利用率:貸借された証券の金額 ÷ 貸借できる証券の供給金額
貸借率:貸借された証券の金額 ÷ 時価総額
ショート・ポジション率:空売りされた金額 ÷ 時価総額
観測データ数:245
モデル:
Kyle, A.のモデルの誘導形
PVAR重回帰分析
このモデルは「知識のある投資家」と「知識のない投資家」との間の取引を想定
結論
1 住宅価格の下落局面においてのみ、REITの収益と住宅の投資収益の間に、有意な正の相関関係がある。
2 REITの空売りの増加によって、住宅価格の翌月の下落が予想できる。
3 REITと住宅の相関関係は地域によって異なり、住宅ブームが起きた地域で相関関係が強かった。
私の感想
REITの投資先が実物の不動産なので、両者の収益に相関関係があるのは当たり前じゃない、と思ったのですが、実際は違っていて、相場の下落局面の時のみ連動するのですから投資は奥が深いです。そういえばCAIAでもそのように習ったことを思い出しました。
トレーダーや投資家の方々は、住宅価格の下落を見越してREITを空売りしているのですね。尊敬します。
1つ気になったのは、本研究の結果がリーマン・ショックに大きく左右されているのではないかということです。これからリーマン・ショックの期間を除いた分析も増えていくことを期待したいです。