創業者がベンチャー企業を支配すると
価値創造はどうなるのか?

ベンチャー企業は、発足当初は創業者のビジョンや技術プロジェクトを率いる創業者の能力に依存します。

しかし会社が成長するにつれ、マーケティングなど他の種類の経営手腕を必要とします。

ところが創業者にその能力が欠けている場合が多いのです。

このため、創業者による支配が続くと会社の価値が損なわれる可能性が出てきます。

原題:「The throne vs. the kingdom: Founder control and value creation in startups」

著者:Noam Wasserman

掲載紙:Strategic Management Journal 2016年1月8日

観測期間:2005年~2012年

 

データ

  • CompStudy調査
  • 米国のベンチャー企業6,130社と創業者16,500人に対するアンケート調査

 

分析方法:固定効果モデルも使った回帰分析

従属変数

  • 調達できた資金の額
  • 企業の直近の評価額 

 

独立変数

  • 創業者支配指標(創業者が今でも最高経営責任者の座にいるか?創業者と内輪の経営幹部が取締役会の過半数を占めるか?)
  • 会社の創業年数
  • 創業者の職務経験年数
  • 創業者の起業経験
  • 共同創業者の職務経験年数
  • 創業者による元手の出資
  • 創業者が幹部メンバーを勧誘した
  • 取締役会のエンジェル又はベンチャー・キャピタルが幹部メンバーを勧誘した
  • 幹部メンバーの職務経験年数
  • 経営経験のあるメンバー
  • 幹部メンバーの平均報酬
  • 幹部メンバーの平均持分比率
  • 最後の資金調達において出資した創業者
  • 最後の資金調達において出資したエンジェル
  • 最後の資金調達において出資したベンチャー・キャピタル
  • 取締役の数
  • 資本集約度
  • 創業時の経済状況
  • 会社の所在地がベンチャーの活発な州か 

結論

  1. 創業者が過去にも起業した経験があり、創業者の人脈を使って社員を勧誘した場合、創業者の支配が続く傾向がある。(創業者支配と起業経験との相関は有意水準5%、幹部メンバー勧誘との相関は有意水準1%)
  2. 創業メンバーでない幹部メンバーに経験があればあるほど、創業者支配は弱くなる。(有意水準1%)
  3. ベンチャー・キャピタルが出資する場合、創業者の支配力は弱まるが、エンジェルが出資する場合、創業者の支配力は強まる。(有意水準1%)
  4. 創業者支配とベンチャー企業の価値は、負の相関を持つ。(有意水準1%)平均して、創業者の支配力が1レベル増すごとに(取締役会での支配力を持つ、最高経営責任者の座につくなど)、ベンチャー企業の価値は17.1%~22.0%低下。
  5. 創業者支配と企業価値の負の相関は、ベンチャー企業の年数が増すほど強い。(有意水準1%)特に企業の存続年数が3年以上の場合がそうである。

 

私の感想

NHKドラマ「まんぷく」のモデルとなったインスタントラーメンの発明者、安藤百福氏は、日清食品が上場した後も経営トップとして活躍し続けました。もっとも安藤氏の場合、インスタントラーメンで起業する以前に26年間に渡って起業と経営を行なった経験があったので、この方は例外的なのでしょうね。

スティーブ・ジョブズ氏は起業に大成功した後、経営から締め出され、それから復帰して再び成功しました。これも例外なのでしょうか。

本論文の結論からすると、起業家は3年ぐらい働いて会社を軌道に乗せたら、持分を手放し、楽隠居するか、新しく別の会社を起業するか、どちらかを選ぶ方が世の中にとってベストとなります。起業家の人生は変化に満ちていますね。

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